以前、非Web系事業会社におけるデータ分析業務の愚痴を溢していたのですが、なんとか1年持ち堪えたので、振り返りを文書として残しておきたいと思います。非Web系事業会社のデータサイエンティストポジションを検討している方の参考になれば嬉しいです!!
対象読者
- 非Web系事業会社のデータサイエンティストポジションを検討している方
- 「未経験からDSに転職した」系の記事のその後が知りたい方
この記事の内容
- 1年間やったこと
- 転職当時考えていた障壁はどうなったか
- 今後どうするか
言いたいこと
- データ活用後進企業故か企画から分析の実施まで一通り経験できた
- 「データ問題」と「採用問題」の解決には時間がかかりそう
- デメリットはあるけど、コンサル×データのキャリアを磨くのに良い環境なのでもうしばらくは残ろうかな
- 当たり前だけど、一緒に働く人が大事ですね(この点で私はラッキーでした)
1年間やったこと
この1年間で業務としてやったことは、分析案件の企画と、分析実行の2つです。プロダクト化の前までのフェーズまではそれぞれ一気通貫で経験ができました。
- 分析案件の企画
- ビジネス課題の理解: ビジネス部門への課題ヒアリング、分析企画
- 分析実行
- データの理解: Python, R, SQLを使った基礎集計やクロス集計1)
- データの準備: Python, R, SQLを使ったデータマート構築1)
- モデルの作成: Auto-MLやPython, Rを使ったモデル構築1)
- 評価: Auto-MLやPython, Rを使ったモデル精度の評価1)
- 展開/共有: 分析結果のレポーティング及び活用アクションの提案2)
1) 自分で手を動かすケースと、外部委託に委託し作業監督するケースあり
2) 本番環境へのデプロイは未経験
転職当時感じていた障壁はどうなったか
以前のエントリーで提示した3つの障壁は依然存在しているのですが、時代の潮流(アフターコロナで今後どうなるか怪しいですが)と、案件成果とが相まって、解消されつつあるように感じています。
「データが無い問題」は解決しそうだが恩恵を受けるまで時間がかかる
いくつかの部門で、データ基盤に対する投資を行う動きが出てきました。ただし、過去に捨ててきたデータはどうにもならないことと、データ分析部隊が自由にデータをハンドルできるようになるまでにはまだまだ障壁があることから、直近では恩恵が受けられないかと思います。
「事業現場でデータ利活用が重視されていない問題」は解決しそう
案件で成果が出るようになり、事業現場の温度感は変わってきているように感じます。少なくとも案件で直接関与した部門では、実際にデータから価値を抽出する過程を共有したこと、分析案件の成果が数字として見えるようになってきたことから、劇的に温度感が上がったように感じます。
案件を通じてビジネス部門との距離感が縮められたこと、新しい部門に対しても、他部門の事例を持ってコミュニケーションが取れるようになったことは、非常に大きな進歩となりました。
「データ利活用部門の採用方針が課題とミスマッチしている問題」は「採用できない問題」に転化した
入社当時は寄せ集めのチームでしたが、1年かけて、管理職クラスにも我々実務メンバーが感じている課題認識が伝わるようになり、部の方針という観点では課題は解決されました。しかし、採用できるか、というと全く別問題で、データ分析界隈で認知度が低い会社が優秀な人材を獲得するにはまだまだ超えるべき障壁がありそうです。
今後どうするか
当初見込んでいた非Web系企業である弊社に留まるメリデメは多少変化しましたが、依然、留まるメリットが大きいように感じており、留まり価値を発揮する方向を模索したいと考えています。
メリット
データ分析実務経験によりピュアなコンサルと差別化できる可能性がある
私自身の1年間の反省でもあるのですが、以下のように、データ分析の実務に関わらなければ見落としてしまいがちなポイントがいくつかあることに気がつきました。実際、弊社では某コンサル企業からデータ分析案件企画のサポートを受けているのですが、彼らもこのようなポイントを見落としているように感じます(中にはちゃんとできる方もいるんでしょうが)。
- ビジネス課題特定では、組織の意思決定のレベルで課題を特定しなければならない
- 「ある情報がXXだったら、YYという意思決定を行う」くらいの具体度で意思決定が特定できていないと分析したところでアクションが打てない
- 分析課題設定は、妥当性(ビジネス課題とのつながり)と、実現性(データ有無、効果検証可能性)の両方の視点から磨く必要がある
- ビジネス課題を討ち取るための分析課題設定は必ずしも一通りでは無い。データや、ビジネス課題に応じて、回帰問題、分類問題の何れが適するかが変わる
- バイアスを取り除くために必要なデータが取得できていなければ、ミスリードな結果を提示しかねない
- 「意思決定改善による経済効果を測定するロジック」、「測定に必要なデータ」の両方が揃っていなければ、効果を証明できない(当たり前のことではありますが、バックテストのみで効果シミュレーションする必要がある場合、本項目を制約条件として意識する必要があります)
- …etc
裏を返すと、このようなポイントを押さえることが、作業者としてのデータサイエンティスト、分析経験の無いピュアなコンサルタントとの差別化につながると考えるようになりました。
優秀なデータサイエンティストから技術や思考を盗める
企業のカルチャーにもよるので一概には言えませんが、少なくとも弊社においては、ビジネスのバックグラウンドでもデータサイエンス領域に意欲がある人間であれば、データサイエンティストから教えをこえる環境にあると思います。
ただし、データサイエンティスト自身が教えるための知識を体系的に理解していないケースが多いので、案件を通じて彼らの技術や思考を積極的に盗みにいくスタンスが必要だと感じています。
今の職場では、盗む価値があるくらい尊敬できるデータサイエンティストが在籍しているため、留まる価値を感じています。
企画フェーズを本気で考えられるデータサイエンティストの需要は大きい
直近、某転職サービスを通じて、企業(コンサル、ベンチャー、Web系、非Web系など様々)やヘッドハンターの方から相当のスカウトをいただいています。スカウトの数が多いのは、トレンド的な要素が大きいと思いますが、企業サイドの方と実際に話していて思うのが、「データ分析実務を理解した分析案件企画力」に関しては、課題を感じている企業が多そうだ、ということです。
非Web系だから分析企画力が養われる訳では無いですが、現在の環境では、企画から実行まで関われること、分析実務に関して盗むに値するデータサイエンティストが在籍していることから、本ポイントに関しても依然メリットがあるように感じます。
企画フェーズでのパフォーマンスは、事業ドメインの知識に依存する部分も大きいので、何かしらの領域で専門性を高めて行ければと考えています。
デメリット
最先端技術を自主的にキャッチアップする必要がある
現職は、最先端技術を駆使して闘う企業では無いので、自ら手を動かす経験は無いですが、例えば画像ソリューション等、ピンポントで技術導入するケースはあり得るので、自主的にキャッチアップしておく必要があると思います。
R&D組織でプレーヤーとして活躍することは難しい
上述の通り、先端技術に触れる機会はほとんど無いので、R&D組織の位置メンバーとしてバリューを発揮するのは難しいと思います。
ただし、同僚にはR&D組織に転職した人間もいるので、転職自体は可能ですし、マネジメントクラス等ポジションをずらせば、活躍の可能性はあるのかもしれません。
組織がなくなりキャリアチェンジが失敗するリスクはある
キャリアチェンジを考えている方にとっては上記のリスクがあります。ただ、私自身は、約1年間の実務経験を通じて、別の会社にデータサイエンティストとして転職できるくらいの市場価値は手に入れたと思います。
あくまで上記は現在の話ですので、今後のことも考えるとシニアになっても通用するくらいの市場価値を目指していくことが次の目標になろうかと思います。。
最後に
非Web系企業におけるデータ利活用の障壁は大きいですが、私のように、技術ではなく課題解決を追求したいと思う人にとっては良い選択肢になり得ると思いました。ただし、下記のような前提は必要かと思います。
- 特定の事業領域での知見、課題解決の経験、データ分析の経験の何れかがある(何かしらの領域で価値が出せる)
- データ活用に投資する意向がある会社である(IR情報などからある程度判断できるかもしれません)
- 師となりそうな仲間がいる(今回の転職で重要性を感じたので、次回以降の転職では事前にメンバーに話ができるような場をセッティングしてもらおうと思いました)
以上、ご参考になれば幸いです!