ダイナミックプライシング導入検討で躓いたこと・助言されたこと(完成度35%)

なびなびは、勤め先でダイナミックプライシング(以下、DP)を導入したいと考えています。

しかし、検討を進めているうちに、DPの領域は様々な技術分野が入り組んでいるため、多少データ分析の経験があっても注意しなければ躓いてしまう可能性が高いと感じました。

そこで、以下のようなテーマを記事にして、同じような悩みを抱えている方に共有できればと考えました。

  • DP導入検討で躓いたこと・助言されたこと ← この記事の内容
  • DP効果立証実験の設計方法 ← 次回書く記事の内容

この記事の具体的な内容は以下の通りです。

想定読者

  • DPの技術詳細に詳しくないが、自社で導入したいと考えている人(検討している人)
  • 躓きが発生する過程に興味がある人(過程に興味ある人)
  • 現場から出てきたデータ活用案件をレビューする立場にいる人(レビューする人)

記事の内容

  • なびなびが考えた過程
  • 先人からいただいた助言
  • なびなびの気付き

言いたいこと

  • DP領域では様々な技術が使われているため、技術起点で検討を進めるのは危険(検討している人)
  • なびなびは、DP導入検討にあたり、What(要件)を詰める前に、How(詳細)を細かく考えすぎてしまった(過程に興味がある人)
  • 現場や分析コンサルから効果立証実験の提案があった際には、「なびなびの気付き」の章で提示する項目が具体的に定義されているか、確認した方が良い(レビューする人)

お勧めする読み方

  • ケースワーク感覚で、「考慮すべきだが考慮できていない点」を考えながら批判的な目線で読んでいただくのが良いと思います

注意事項

  • ご紹介する助言には、「なびなびの解釈」が加えられています。ご助言いただいた方が、内容を保証しているものではありませんので、あくまで自己責任でご活用ください
  • それでも、同じような悩みを抱えている方に、微力ながらでもお役に立てばと思い、この不細工な記事を公開しています

なびなびが考えた過程

つい先日、Twitterにてこんなお悩み相談をしました。

なびなびの勤め先は超が付くほどのレガシー企業で、主に、「データが無い」という理由でデータ活用に苦しんでおります。

しかし、そんなレガシー企業でも、プライシング(値付け)のデータは、手掛けている事業の多くで取得ができます。しかも、ダイナミックプライシングと相性が良いとされる、ホテルのような資産稼働型のビジネスも多く手掛けているのです。

そこで、考えました。ダイナミック・プライシングを横展開すれば良いじゃないか!

問題設定

しかし、なびなびの職場でDPを導入するに当たっては、2つ問題があります。
1つは、対象の事業では、過去に価格を変動させたことがないため、価格を変動させた際のデータ収集から始めなくてはならないこと。もう1つは、コロナの影響により、リターンが見えていない状態で外部ベンダに委託すること(キャッシュアウトが発生すること)が難しいということです。

以上をまとめると、次のような問題設定となります。

  • 前提条件:
    • ホテルのように資産を一定期間貸し出すことにより収益を得るビジネス
    • これまで価格変動させたことがない
    • 効果が見えなければ外部ベンダへの委託(キャッシュアウト)は難しい
    • (内部リソースのみでガチなDPを実装するのは多分無理)
  • ゴール:
    • 外部ベンダへの委託の承認を得る
    • 内部リソースのみで1. 価格変動時のデータ収集を行い、2. DPの効果を立証する

なびなびが考えた進め方案

次のプランを考えました。

ダイナミック・プライシングの導入手順案(なびなび作成)

ポイントは2点あると考えていました。

  1. 比較可能な対象でABCテストする
  2. ABCテストの価格設定どうする

比較可能な対象でABCテストする

これを実現するためには、実験の前に、現行価格とした際に見込まれる稼働確率を予測する必要があると考えます。なぜなら、稼働確率を考えてサンプルを割り付けないと、データ収集の効率が落ちてしまうためです。

釈迦に説法かもしれません。
しかし、なびなびは、最近になって、因果推論を学び始めたので、あえて説明します笑。

ある資産を、昨日は価格Aで、今日は価格Bで値付けし、昨日(木曜日)は売上120万円、今日(金曜日)は売上140万円だったとしましょう。「この資産の値付けは、価格Aではなく価格Bとするべきだ」、「価格Bで貸し出すことにより20万円の収益効果がある」と結論付けても良いのでしょうか。

答えはNGです。なぜなら、「この資産は毎週金曜日に稼働しやすい」といった別の要因が背後に潜んでいる可能性があるからです。本当に正しい効果を求めるには、同じ資産を同じ時間に、価格Aで貸し出した場合の売上と、価格Bで貸し出した場合の売上を比較しなければなりませんが、それは不可能です。

では、どうするかと言うと、擬似的に比較可能な状態を作り上げます。 最も直感的かつ信頼のおける方法は何かと言うと、RCT(ランダム化比較実験)とされています1)

1) 効果検証入門 (安井 翔太 (著), 株式会社ホクソエム (監修))

と言うことは、「時間帯や資産に対して、ABCの値付けをランダムに割り付けて比較」すれば良いのでしょうか。

これもNGなのです。なぜなら、今回やりたいのことは、「これまで全資産の全時間枠で据置価格Aだったもの」を、「価格BまたはCに据置直すこと」ではないためです。「その時々に期待される需要に応じて、価格ABCを出し分たい」のです。

今回のABCテストでやりたいこと(なびなび作成)

時間と機会損失が無限に許容されるなら、とりあえず全ての資産でランダムにABCを割りつければ良いのですが、効果的にデータを収集するには、期待される需要レベル別にサンプルを割り付けるのが効率的だと考えました。

このような効率的なABCテストを実現するには、事前に想定される需要レベルを予測しておく必要があります。

サンプルの割り付け方

なお、今回のケースでは、「需要レベル」を、「従来価格とした際に予想される稼働確率」と置き換えました。

ABCテストの価格設定どうする

ここまでは、筋道立てて考えられていたと思ったのですが、ABCの価格設定(何%値引き、値上げするのが良いの?)の方法については良いアイディアが思い付かず、困りました。

いくらこれまでのアイディア良くても、肝心の価格設定を間違えると効果を立証できない可能性もあるので、ここは慎重に考えたいと思ったのです。。

と、「考える」から「悩む」に入ってしまったので、先人に尋ねることにしました。

先人からいただいた助言を紹介する前に

以上が、なびなびが考えた過程でした。

この進め方について先人に助言をいただいたのですが、いただいた助言を俯瞰的に見て、この進め方案が良いのか悪いのかを判断するには、問題設定をもう少し具体的に詰める必要があったことに気がついたのでした。

仮に、現場や分析コンサルからこのような案件が上がってきたら、どんな点について指摘をするべきでしょうか。助言をご紹介する前に、ご自身で考えていただくと良いかもしれません(なぜか上から目線…)。

先人からいただいた助言

先人に相談した内容は、大まかな考え方があっているのか、価格設定の考え方で良いアイディアが無いか、の2点です。

こんな面倒な相談に対して、TwitterやLINEで先人から助言をいただくことができました(本当にありがとうございます!!)。

いただいたご助言は以下の通りです。

  • a. ビジネスとDPの相性を考えたほうがいいよ
  • b. まずはイールドマネメントの概念から入ったほうがよいよ
  • c. 価格の出し分けに多腕バンディットを使えば機会損失抑えられるよ
  • d. 時間軸が許すならABCに限定せずに他の価格帯も試した方が効果出るよ
  • e. 価格弾力性の分析から入るアプローチもあるよ

アドバイス詳細に入る前に、ここでの学びを申し上げると、「技術以前に考えるべき要件がもっとあった」ということです。この観点で、いただいたアドバイスを紹介・考察したいと思います。

a. ビジネスとDPの相性を考えたほうがいいよ

具体的には次のようなものでした。

  • モデル構築の手間などを考えると収益効果が本当に出るのか微妙なところ
  • 不動産のような大型資産なら導入意義があるかもしれない
  • 一方、もっと単価が低いようなものなら考え直した方が良いかも

なびなびは、「どうやるのか」を掘り下げていましたが、「そもそもやるべきなのか」を問うありがたいアドバイスでした。

なびなびなりに、「そもそもやるべきか」を掘り下げると、1. ビジネス規模、2. 限界利益率の2点が大事だと感じました。

1点目については、ある程度ビジネス規模がなければ、インパクトが出ないので必要な要件だと思います。数%の売上UPを見込むとして、億円規模のビジネスでなければ厳しいのではと思いました。

2点目の限界利益とは、売上から顧客がサービス利用する度に発生するコスト(減価償却費などの初期投資によって発生したものは除く)を除いたものを指します。限界利益の大きさがある程度ないと、値引きで限界赤字(売れば売るほど損する)が発生するので、DPとは相性が悪いと考えます。

限界利益率が何%なら良いのか肌感がないので、ダイナミックプライシングが浸透しているホテル、航空業界をベンチマークしようと思います。

詳細は以下の通りですが、旅行・ホテル、航空業界では、限界利益率80%以上と、相当高い限界利益率となっているようです。

  • 税理集団TKCによると、旅館・ホテル業の限界利益率は83%だそうです
『TKC経営指標』速報版(宿泊業,飲食サービス業)(https://www.tkc.co.jp/bast/disp_bast.asp?param=site:zenkokukai,gyosyu:insyoku)
  • 航空業界については、限界利益100%近いと考えられます
    (ANAの財務諸表を見ると、燃油費・航空使用料・整備費・機材費など、航空機が飛ぶか飛ばないか、航空機を保有するかしないか、によって発生する費用の占める割合が大きいようです)
ANA2019年度の決算説明資料(https://www.ana.co.jp/group/investors/data/kessan/pdf/2019_04_1.pdf)

b. まずはイールドマネメントの概念から入ったほうが良いよ

ダイナミックの手法論に入るよりも前に、イールドマネジメント(レベニューマネジメント とも呼ばれる)という言葉から体系的に入るべきとのアドバイスをいただきました。

レベニューマネジメント(収益管理)について― 数理によるビジネス課題への挑戦 ―(筑波経済月報2018年7月号)」によると、レベニューマネジメントには、

  • 販売予約を低価格購買層から始め、サービス開始時点までの時間と販売限度枠でコントロールすることにより収益最大化を目指す狭義のレベニューマネジメント
  • 需要に応じて価格を変えることにより収益最大化を目指す広義のレベニューマネジメント(プライスマネジメント)

という2つの流派があるようです。そして当然ながら、これらのどちらを取るのかによって、「狙い」が違いますし、技術的なアプローチも異なるのです。

ここで言う「狙い」とは、「なぜ価格を変動させることによって収益が改善するのか?」、を説明する仮説と捉えています。具体的な狙いとしては以下のようなものがあると思います。

  1. 直前予約に対して高いお金を払っても良いと思っている顧客のために在庫を確保することで、収益の改善が期待できる
  2. キャンセル料金が発生してでもサービス利用日の相当前のタイミングでロットで在庫を確保したい顧客向けに単価を引き下げることで、稼働率ひいては収益の改善が期待できる
  3. 稼働率が低い時間帯や資産の単価を下げることで、稼働率ひいては収益の改善が期待できる
  4. 稼働率が高い時間帯の資産の単価を上げることで、多少稼働率を犠牲にしても収益の改善が期待できる

なびなび案は、暗に仮説3. 4. を想定していました。しかし、事業側の感覚からすると、1. 2. あるいは他の仮説の方が有望かもしれません。

狙いを明確にしておかないと、手法の良し悪しの判断がつかない」、という点で、とても参考になるアドバイスでした。

c. 価格の出し分けに多腕バンディットを使えば機会損失抑えられるよ

通常、ABテストを実施する場合には、効果が出ないオプションも一定回数実施しなければならず、データ収集のためとはいえ、機会損失が発生してしまいます。

この機会損失を抑えるために、ABテストの途中経過情報を使ってABの出分け比率を変えていく、というのが、「多腕バンディット」のコンセプトです。比率の更新方法には、いろいろな手法が考案されているようです。

なびなびが参考になりそうだと思った文献は以下の通りです。興味ある方はご覧ください。

多腕バンディットを利用するのは、データ収集のフェーズであり、収集の過程で出分けのアルゴリズムを見直す必要が出てきます。

そこで、なびなびは気付きます。「あれ、弊社、そんな柔軟に価格の出分けできるのかしら・・・?

技術的にこのようなアプローチがあることを教えていただいたこと自体大変ありがたいのですが、それ以前の問題として「データ収集段階で価格の出分けがどの程度柔軟に行えるのか明らかにすべし」と気がつけた、という点で大変参考になるアドバイスでした。

d. 時間軸が許すならABCに限定せずに他の価格帯も試した方が効果出るよ

データ収集コストや期間が許すなら、ABCの3パターンに限定するのではなく、もっと多様に価格を出し分けて、数理最適化を用いて最適価格を選択することを考えてはどうか、というアドバイスをいただきました。

そうすれば、3パターンのみ場合よりも、期待効果を高められそうですし、前述の多腕バンディットのテクニックを使えば、損失も抑えることができそうだ、とテンションが上がりました。

しかし、実際に弊社で実現することを考えた際に、以下の懸念が湧き起こりました。

  • 弊社、こんなにたくさんのパターンをランダムに出分けることできるかなあ…?
  • 選択肢が多い分、データ収集期間を長くしないとだけど許容できるかなあ…?
  • 弊社の経営陣は数理最適化で出した結果に腹落ちするだけのリテラシーがあるかしら…?
  • 俺、数理最適化のリテラシーが無いけど、学べばパワーアップできるのか…?

「事業の状況や、経営者、自分自身のレベルに応じて手法を選ばねばならない」、という気付きが得られ、大変参考になるアドバイスでした。

e. 価格弾力性の分析から入るアプローチもあるよ

観測データから、「価格弾力性(需要に対する価格の変化率)」を推定することにより、需要関数そのものを推定することで、最適な値付けを決める古典的なアプローチがあるようです。以下の文献が参考になりそうでした。

こちらに関しても、「事業の状況や、経営者、自分自身のレベルに応じて手法を選ばねばならない」、という気付きが得られました。

特に、価格弾力性を推定する場合、様々な価格に対する需要の感度を確認することになりますので、「多数の価格の出し分けパターンが必要」と言う点も注意が必要と感じました。

また、価格弾力性を推定するアプローチに対して、冒頭にお示しした、価格別の需要を直接予測するアプローチの場合、AutoMLを使って、簡単に実装できてしまえます。そこまでゴリゴリに数理手法を使いこなせる自信や時間がない場合(含む私)、需要を直接予測するアプローチも悪くないのかもしれません。

ご参考までに、価格弾力性、需要を直接予測以外のアプローチで、なびなびが発見したものですと、強化学習を用いたアプローチもありました。強化学習が適しているケースについては、勉強不足で未知です、ごめんなさい。。。

なびなびの気付き

以上の助言をいただき、技術以前に要件を詰めるために考えるべきことが、たくさんあったと気付かされました。

上記助言も踏まえ、現段階でなびなびが思う「決めること(要件)」、「決めるために考えること」、「考えた結果、選ぶべき選択肢」は以下の通りです。

青くでハイライトしたものは、なびなびの進め方案が暗に前提としていた条件になります。

技術・アプローチを選ぶために決めること・考えること(なびなび作成)

上記全て、なびなび問題設定の段階で触れていませんでした。なので、ものすごく突っ込みどころ満載なご相談だったのではなかろうかと思います笑。

実際のところ、なびなびのケースでは、1、3、4、5、6が怪しいので、今後のアクションとしてこれらを確認しようと思います。。特に、課題設定でミスると取り返しがつかないことになるので、1、3、4は非常に重要です。

ダイナミック・プライシング案件をレビューされる方は、上記のような観点でご確認いただくのが良いと思います。このような観点が考慮できていない場合、案件の軌道修正が必要となるかもしれません。実験を行う前に、確認が必要と思います。

謝辞

助言いただいた方々にこの場を借りて御礼を申し上げます。

最後に

今回、なびなびの失敗を題材として、よくない点 → あるべき姿、整理を行いました。このままでは実務で参照するには使い勝手が悪いので、次回は、あるべき姿 → なぜそうなのか、と言う観点でこれまでの内容を整理し直したいと思います。

最後に、技術観点で参考になりそうなURLをご紹介してこの記事を締めたいと思います。

以上!

参考文献

イールドマネジメント

ダイナミックプライシングの概要

ダイナミックプライシン実装事例

価格弾力性の分析手法

多腕バンディット

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