良いアイディアを作るにはどうしたらいいんだろう

私は、戦略コンサルタント、データサイエンティストと、思考力を武器とする職業を経験してきました。私が優秀かどうかはさておき、優秀な戦略コンサルタント、データサイエンティストを見ていて思うのは、「ロジカルなだけでなく、アイディアの発想力にも長けている」ということです。新規事業の構想や、課題特定、分析のデザインなどの上流工程では、ロジカルに考えるだけでは超えられない壁があり、その壁を発想力によって超えていると感じます。

コンサルタント時代、発想力に悩んでいた私が、先輩コンサルタントから勧められたのが、アイディアの作り方という本です。本書は、アメリカ最大の広告代理店トムプソン社で常任最高顧問、アメリカ広告代理行協会の会長などを歴任した、ジェームス・ウェブ・ヤング氏によって書かれたものです。主張がシンプルなので、とても読みやすいのですが、その時々の自分の経験を加えて主張を咀嚼することで、いつも違う「味」が出るなあ、と感じています。

「アイディアは既存の組み合わせであること」は、広く知られていると思います。一方、「無闇やたらに他の領域の知識を組み合わせれば良いわけではないこと」は意外と見落とされがちです。私も、久しぶりに本書を読んで、この見落としに気がつきました笑。この記事では、本書「アイディアの作り方」の主張と私自身の経験に照らして、「良いアイディア」を作るための方法について考察したいと思います。

言いたいこと(=私の教訓)

アイディアは既存の組み合わせであることに気をとられすぎて、
・個々の事象を”深く”掘り下げること、
・一般的知識は闇雲に収集するのではなく思考の棚に格納すること、
・アイディアを考える(≠作業)時間を確保すること、
などの基本所作が忘れられがちなので初心にかえろう。

この記事の内容

  • 本書の主張
  • ①着目している領域の知識の収集
  • ②一般的な知識の収集
  • ③アイディア創出
  • ④他者からのレビュー

少しボリュームが多いですが、お付き合いいただけると幸いです。

本書の主張

本書では、冒頭、以下2点が主張されます。

  • アイディアには創出されるプロセスが存在すること
  • アイディアは既存の知識の組み合わせにより創出されること

その上で、具体的なプロセスとして以下5ステップが主張されています。

アイディアを作成の5段階(「アイディアの作り方」の内容を引用・整理し、なびなびにて作成)

端的に言えば、以下のような主張です。

  • 着目している領域はめちゃくちゃ深く観察すること
  • 一般的な知識についても貪欲に収集すること
  • 死ぬほど考えた末に、知識が組み合わさりアイディアが生まれる
  • アイディアには現実適用上の課題があるから他人の目に晒しましょう

私自身の経験に照らし、それぞれの主張に対して、どのような点が落とし穴だと思ったのか、どうすればうまく使いこなせそうなのか、考察を加えたいと思います。

①着目している領域の知識の収集

  • 落とし穴:
    • 着目領域の理解に必要な考察は想像以上に深い
  • 穴にハマらないためのヒント:
    • アイディアを出せる人の視点を真似よう

着目領域の理解に必要な考察は想像以上に深い

はじめて本書を読んだ時には、「一見違いがわからないような物事でも、十分に深く掘り下げることでアイディアにつながるような関係の特殊性が見つかる可能性がある」と言う一節についてそれほど深く考えていませんでした。むしろ、「アイディアは既存の知識の組み合わせにより創出されること」が印象に残り、様々な分野の知識を貪ったものです。

しかし、戦略コンサルタント、データサイエンティストと、「思考力」を武器として戦う職業を2つ経験し、優れたコンサルタント・データサイエンティストの着目している領域への考察の深さが半端ないことに気付くようになりました。

コンサルタントは、フレームワークをうまく使いこなして、物事を整理することに長けてると思われがち(私自身もそう思っていた)です。しかし、優れたコンサルタントは、一顧客の視点、一競合の視点、一社員の視点から、それぞれ深い示唆を導出することで、納得感の高い戦略を練り出すことができます。

データサイエンティストは、統計や機械学習を使って、データから示唆を抽出することに長けていると思われがちです。しかし、優れたデータサイエンティストと働いてみて思うのは、彼らが価値を発揮するのは、上流工程(課題整理、目的変数デザインなど)であり、そのために、意思決定を下す立場の人間の視点、一顧客の視点で考え抜いている、ということです。

では、自分が実践できるかと言うと、どれだけ深く考察したと思っても、デキる人と比べるとどうしても浅い考察になってしまうのです。

アイディアを出せる人の視点を真似よう

Twitterで呟きましたが、上流工程には良い型(プロセス)が存在していないと考えています。なので、デキる人の「視点」を徹底的に観察することが、落とし穴にハマらないためにやるべきことだと思うのです。身の回りにいる、デキる人を見つけて、観察したり、どんな視点で考えているのか聞き出すのが良いと思います。(私もそうしています)

なお、デキる人を見分けるコツは、「複数の視点からアイディアを出していて、かつ、そのアイディアに意外性や納得感がある人」を見つけることだと思います。企業文化によっては、アイディアマンが必ずしも評価されていないので、このような観点で、見分けましょう。

この章の締め括りに、データ分析の文脈で、「私の過去の失敗」と、「優秀なデータサイエンティストの観察」から、分析の各フェーズで大事だと考える視点を紹介したいと思います。ご参考になれば幸いです。
→ ブログの記事としても整理していますので、よろしければご覧ください。

分析工程別の視点(なびなびの失敗より)

②一般的な知識の収集

  • 落とし穴:
    • 無闇やたらに他の領域の知識を組み合わせれば良いわけではない
  • 穴にハマらないためのヒント:
    • 知識は自分の思考に適した方法で「思考の棚」に格納しよう

無闇やたらに他の領域の知識を組み合わせれば良いわけではない

アイディアは既存の組み合わせである」ことは、多くの方がすでにご存知だと思います。ただ、「無闇やたらに他の領域の知識を組み合わせれば良いわけではない」ことについては意外と見落とされがちです。

本書で主張されていることは、「事実(知識)そのもの」ではなく、それぞれの「関係性」を見出すことが重要であるということです。私自身、最初にこの本を読んだ時には、わかったつもりでわかっていなかったポイントなのですが、実務経験や、他の本に触れることで、改めてこの主張の重要さと難しさを理解したと思いました。

コンサル時代、色々と本を読み漁っている時期があったのですが、アイディアに直結しないことを自覚する時期がありました。その後、アナロジー思考に触れ、「関係性」を見出すには、知識を抽象化して「思考の棚」に納めることが重要だと気付きました。そこで、読んだ本を自分なりに解釈して、言語化しておくようにしたところ、アイディアに結びつく度合いが増えたように感じます。

知識は自分の思考に適した方法で「思考の棚」に格納しよう

「関係性を見出す」を実践する難しさは、人によって良い方法が違うこと、だと思います。

私の場合は、「メモの魔力」でSHOWROOM前田さんが取り組まれているように、一々言語化してストックするのが向いているように感じました。

私は言語記憶派なので一々言語化しないとストックできないのですが、映像記憶派の妻はその時々に感じた感情と一緒に抽象化した出来事をストックしているようでした。妻も一時期言語化することに取り組んだことがあったのですが、どうも効果を感じられなかったようです。

というわけで、人によって適した思考の整理方法は異なるのだと思いました。思考の整理に関して、私が参考になった書籍を紹介して、この章を締め括ります。良い方法が見つかりますように!

思考の整理学

「2017年東大生協文庫売上」1位を獲得した名著です。情報の”メタ”化のための手法として、スクラップ、カード・ノート、つんどく法、手帳とノート、メタ・ノート、と様々紹介されています。この本自体、アイディア創出の方法論の考察を試みているので、本書と併せて読むことで理解が深まりました。(「思考の整理学」は、高校時代にも読んだのですが、その時はちんぷんかんぷんだったものが、今読んでみて、だいぶ理解が進んだように思います。)

メモの魔力

こちらは、SHOWROOM前田さんの書籍で、2019年上半期ベストセラービジネス書部門1位、総合9位獲得とご存知の方も多いと思います。ファクト→抽象化→転用(アイディア化)による3つの観点で思考を整理する方法が紹介されています。私も試してみましたが、転用まで意識することによって、抽象化の質も高まるように感じました。

ゼロ秒思考

元マッキンゼーの赤羽さんの著書で、こちらもご存知の方が多いと思います。ひたすら思い浮かんだことをメモに書き起こすと言うシンプルな方法が提案されています。私自身このメモ書きにはコンサル時代からお世話になっていて、考えを巡らせたい時には、提案されている方法で思考の発散と収束を行うようにしています。

番外編

以上、書籍を紹介しましたが、番外編として、「感動・感情」に関する観点もご紹介したいと思います。

私の妻は、幼少の頃から芸術に触れてきたためか、贔屓目に見ても、右脳的な発想力に長けていると感じます。そんな妻の話で印象に残っているのが、幼少の頃から、「感動に理由をつけるのはやめなさい」、という教えを受けて育ってきた、というエピソードです。例えば、綺麗な花を見た際に、「この青と、この赤のコントラストがいい感じで、、、」のように理由をつけるのではなく、シンプルに「綺麗だ!」と感動する、ということです。

最近、個人的に発想力に長けていると思う人(妻も含む笑)を観察していて思うのが、視点はさることながら、自分の強烈なエゴ(やりたい/やりたくない/欲しい/欲しくない)に関連したアイディアを着想していることが多い、ということです。

先日の出来事ですが、現職のデータサイエンティストが、業務サイドとの分析企画のディスカッションで、業務サイドすら思いつかないような新規事業構想(分析に関係しないもの笑)を提案し、業務サイドが完全にマウントされてしまったことがありました。その構想は、データサイエンティスト自身の実体験での「感動」から想起されたものだったようです。

アイディアを出そうと力むほど、左脳的な発想が強くなりますが、力を抜いて、自分の感動・感情に目を向ける、ということも大事なんだろう、と思います。

③アイディア創出

  • 落とし穴:
    • 安きに流れて表層的な課題を解決しがち
  • 穴にハマらないためのヒント:
    • 「嫌気がさすまで」考え抜こう

安きに流れて表層的な課題を解決しがち

本書には、「嫌気が指して、絶望状態が訪れる」と書いています。私自身の経験に照らしても、絶望するまで考え抜くのは、大事なことだと思います。

戦略コンにいた時は、競合1社1社の動きに対して、「なんでそんな動きをするのか?」、「その動きはクライアントにどんな影響をもたらすのか?」を嫌気がさすほど考え抜いたところ、驚くような示唆が現れたことがありました。それは、深夜32時のことでした。

逆にデータサイエンティストにキャリアチェンジしてからは、業務部門のお題に応えようとするあまり、問題の本質まで考えを巡らせられていないことが多いと反省することがよくあります。こちらの反省については、Twitterにも投稿しました。

データ分析に限らず、人からの依頼の多くは、What(何すればいいんだろう?)、How(どうやってやればいいんだろう?)と、アクションに近いレイヤーであることが多いと感じます。しかし、①Where(問題の所在はどこ?)や、②Why(なぜ問題が発生しているの?)が正しく特定できていない場合も多々あります。結果、引き受けても、思ったような効果が出ないことが多いのです。

人間、仕事に慣れてきたり、反対に、気持ちに余裕がなくて焦ったりしていると、与えられた簡単なお題を解こうとしがちなのです。。

「嫌気がさすまで」考え抜こう

処方箋は、「時には前提も疑いながら、嫌気がさすまで考えること」しかない思います。上記の例なら、「WhereやWhyの前提を疑いながら、本質的なWhatやHowの問いを嫌気がさすまで考える」ということになります。(言うのは簡単ですが笑)

うまく情報収集するための「工夫」については、①着目している領域の知識の収集、②一般的な知識の収集、述べた通りですが、それとは別に、アイディアを出すための「姿勢」が大事だと感じています。

アイディアを出すのがうまい人は、その場でアイディアを思い付いている」と感じるのですが、よくよく話を聞くと、そのアイディアを思いつくまでに長い間考えていたことが分かることがあります。

例えば、前職のパートナー(経営者)は、トイレに行っている間に、とんでもないアイディアを思いつくことで有名だったのですが、よく観察すると、関連分野の情報収集に余念がなく、暇さえあると紙にアイディアらしきものをメモしていたり、飲み会中にもアイディアに関連する話をしていたりします。(そして誰よりもハードワーカー笑)

前職のパートナーの事例はちょっと極端ですが、「考える姿勢がなければ、良いアイディアなんて思いつかない」、ということが教訓です。その姿勢の現れが、「嫌気がさすまで考える」なんだと思います。

あと、「知識のインプット=考える」と捉えがちなので、インプットとは別に考える(アウトプットする)時間を設ける、ということも大事かもしれません。

嫌気がさすまで考えよう。。

他者からのレビュー

  • 落とし穴:
    • 相談の仕方を間違えると良いレビューが得られない
  • 穴にハマらないためのヒント:
    • 相手の目線を「徐々に」自分の目線に近づけよう

相談の仕方を間違えると良いレビューが得られない

いかに良いアイディアでも現実問題に応用するには課題を抱えています。そのためには他者からの批判の目が欠かせません。

しかし問題があります。先ほど紹介した、「思考の整理学」でも述べられているのですが、アイディアをそのまま見せると、欠点ばかりが取り立たされてしまい、著しくモチベーションを下げてしまうことになります。

それでも、中身がある批判であれば良いのですが、時には、表面的かつ攻撃的な批判を受けることがあります。

そこで、レビューを受けるうえでの、私なりのhackをご紹介できればと思います。

相手の目線を「徐々に」自分の目線に近づけよう

私が紹介する方法は以下2ステップです。

  1. レビュー者に前提情報(市場レポート、アイディア出しの目的など)を共有したうえで、良いアイディアが無いかオープンに相談する
  2. ステップ1から時間を空けて、改めて自分のアイディアをぶつけてみる

この方法の狙いは、「相手に自分と同じ目線に立って考えてもらうこと」です。

中身の無い批判が生まれる原因は、相手の前提知識が自分の前提知識に及んでいないことが大半だと考えています。この前提知識のギャップを埋めるために、最初はオープンな相談を持ちかけることが有効だと考えています。

実は、この方法は、私の妻(なぴのあ)の受け売りです笑。私は、クローズな質問をしがちなのですが、相手から情報を引出したい時、相手の理解度を深めたい時に、意識してオープンな質問をするようにしています。

クローズな質問が多い自覚がある方や、うまく情報を引き出せない、相手の関心を集められない、と言う方にオススメの方法です!

最後に

最後までお付き合いいただきありがとうございます。ここまでのまとめです。

本書はアイディア創出の「基本」に言及したものであり、実際の問題に「応用」するには、各人個別のカスタマイズが必要だと考えています。ただし、「基本」あってこその「応用」であり、基本所作を徹底することは、私個人の経験に照らしても非常に尊いことだと感じています。

事業会社に来てよく思いますが、世の中には創造的では無い仕事がたくさんあり、人はどうしても与えられた作業(≠創造的)に夢中になってしまいます。多くの人が「アイディア創出の基本所作」を身に付け、創造的な将来が来ることを心から願います。

それではまたどこかでお会いしましょう!

以上!

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